不当解雇・退職勧奨における解決金の相場と解決金が高額になる人の特徴
不当解雇や退職勧奨の法律相談を受ける際に、最も多く質問を受けるのが、解決金の相場です。「解決金の相場はどれくらいですか?」とか、「会社から退職パッケージを受けたけど、この割増退職金の額が一般に照らして妥当ですか?」といった質問です。
本稿では、解決金の相場に関する説明と、解決金が高額になる人の特徴を説明していきます。
不当解雇・退職勧奨における解決金の相場
結論から言えば、解決金の相場というのは厳密にはありません。交渉の結果、解決金がいくらで合意に達するかは、客観的合理的理由があり社会的相当性が認められる解雇事由の有無、労働者の復職意思の強さ、使用者側の合意退職への意欲、労働者が許容できる交渉期間などに影響を受けます。それによって、解決金の額が基本給の半年分以下になってしまうこともあれば、基本給の2年分以上の解決金を獲得できる場合もあります。
このように解決金の額が事案によって大きくばらつくのは、解雇された場合に労働者が訴訟で請求する内容が復職を前提としたものになるからです。使用者が、労働者を解雇して、解雇が無効であった場合には、労働契約がなお継続していることになるわけですから、労働者の使用者に対する賃金支払請求権が引き続き発生し続けるということになり、訴訟では、この賃金支払請求を行っていきます。この賃金支払請求権は、期間の定めのない労働契約(正社員)の場合、原則として定年まで発生し続けることになりますから、使用者にとっては、解雇を撤回しない限り、半永久的に賃金を支払わなければならないことになります。使用者としては、この半永久的に賃金を支払い続けなければならないリスクを考慮して、労働者から退職同意を得るために、必要な解決金額を支払うことを検討することになります。例えば、労働者の定年が近いのであれば、使用者は、定年までに支払うべき賃金よりも多く解決金を支払う必要がないわけですから、解決金の額は低くなりがちです。他方、労働者の定年がかなり先である場合で、労働者に復職意思が強く、使用者が、直ちにどうしても辞めて欲しいと考えるようでしたら、解決金の額は高くなりがちです。
もっとも、不当解雇の事案で労働審判が行われる場合、労働審判は、訴訟のように法律上発生する権利義務の存否だけを判断するものではなく、法律を参考にしつつも、法律に厳密に縛られずに、裁判所が良かれと思う内容で判断することができます。そこで、審判では、解決金の金額を定めて合意退職する旨の判断が出されることがあります。その場合の解決金の額は、試用期間中の解雇の場合には基本給の3ヶ月~4ヶ月分、試用期間後の解雇の場合には基本給の6ヶ月分が一般的です。そこで、基本給の6ヶ月分が一応の相場ということもできますが、実際には、基本給の6ヶ月分というものが必ずしも意識されて交渉されるわけではなく、事案によって幅のある結果となります。
解決金の額が上がる人の特徴
解決金の額が上がる人の特徴として、まず、明確な解雇理由がない人であるということが挙げられます。労働契約法16条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定めておりますが、この解雇理由があると、解雇が有効になってしまうので、解雇有効のリスクが高い方は多くの解決金は望めません。逆に、解雇理由がない方は、使用者側から労働者を一方的に退職させることはできないわけですから、解決金が上がっていくことになります。
次に、解決金の額が上がる人の特徴として挙げられるのが、使用者側が、何としても辞めさせたいと思っている人であるということです。解雇理由がないにもかかわらず、使用者が労働者を辞めさせたいと強く思っている場合には、労働者に退職に同意してもらうために解決金を多く支払わざるを得ません。他方、使用者が、必ずしも労働者を辞めさせることにこだわっておらず、働かせても構わないと思っているようでしたら、「こんなに多く解決金を支払うくらいなら、引き続き働いてもらう」と考えるようになり、解決金の額の増加は見込めないことになります。なお、この何としても辞めさせたいと思っている理由は、何でもよいです。労働者の気が強く、引き続き就労させたら周りの人が不満に思うけれど、解雇理由にまではならないとか、労働者の能力が低いけれど、解雇理由にまではならない、という場合でも解決金の額が上がる傾向があります。
さらに、解決金の額が上がる人の特徴として挙げられるのは、労働者のそこでの就労意思(復職意思)が強く、交渉に時間がかかっても、その使用者のところにしがみつきたいと思っている場合です。労働者が、今のところで働くことにこだわらずに、転職すればいいと思っていたり、実際に転職活動して内定を得てしまったりするようでは、労働者は、比較的短期に退職する必要が出てきてしまうので、解決金の額を上げるような交渉力が弱くなってしまいます。逆に、労働者が、転職活動してもなかなか他から内定を得られず、今の職場で就労し続けることにこだわり、そのためには交渉にいくら時間がかかってもかまわないと考えているようでしたら、解決金の額を上げるための交渉力が強くなり、かなり高い解決金を獲得できることもあります。